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M&A実行後は言葉の統一を最優先すべきかもしれない

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム8

言葉の壁

私がX会社の会議に出席したときのこと。
X社はY社を数年前に買収しており、Y社の社員を受け入れ、制度上の統合は全て完了していた。この日は売上の定例報告会で、各チームが順次売上報告を行っていた。

あるチームの売上が低迷していて、それをそのチームのリーダーが報告したところ、部門長が激怒した。売上が取れていない原因に始まり、対応策をチームリーダーに高圧的に尋ね続ける。ちょっとこのチームだけ詰めすぎなんじゃないかと傍から見ていた私は思った。

後でわかったことであるが、怒っていた部門長は買収した側のX社出身、詰められていたチームのリーダーは買収された側のY社出身であった。現場社員に聞くと、怒っていた部門長はY社の買収案件に反対していた1人で、買収後もY社出身の社員を目の敵にしているとのことだった。買収から数年経ち、今更買収案件をとやかく言おうと変わらない事実であることは部門長も認識しているはずなのに、何が部門長の気に障っているのか不思議に思った。

共に現場社員と過ごす中で、1つの要因に言葉があるのではないかと結論に至った。私は誰がX社とY社のどちらの出身かは当然知らない状態で現場に入ったのであるが、一緒にいる間に段々とどちらの会社の出身の判別がつくようになった。なぜなら、Y社出身の人が使う特有の言葉があったからだ。現場にはX社の言葉にY社の言葉が時折混ざってきて、「この言葉はX社でいう~」という文句をよく聞いた。

どこの会社にもその会社特有の言葉があって、他の会社では通じない場合も多い。私が元いた会社では不祥事のことを必ず「重大なイシュー」という言葉を使っていたが、他の会社でイシューというと意味合いが違ってくるのではないだろうか。

言葉のチカラ

部門長が未だに買収案件を引きずっている一因として、言葉の統一が出来ていないからなのではないかという結論に至ったのは言葉にはチカラがあると私は思っているからだ。

方言を考えてほしい。私は地方出身で、これは地方出身あるあるなのだが、東京で自分の出身の方言を話している人と出くわすと、うれしくてなんだか安心した家族に似たような感情が沸いてしまうことがある。逆に地方にいたとき、私の出身が田舎だったことも影響してか、標準語を話す東京人は物珍しく、その標準語を聞くだけでこの人は東京の出身だなと意識していた。特に「直して(標準語で元の場所に戻してという意味)」「すかん(標準語で好きじゃない)」など、地元特有の言葉が通じない時、相手は同じ地方に住んではいるが、元々違う場所に住んでいた人という出自の違いを強く意識した。

このように言葉は用語やイントネーションでさえ、相手に出自が違うと意識させてしまうチカラがあって、これが未だに部門長が買収案件を引きずらせている一因になっているかもしれないと考えた。

言葉で共通化

つまり、「この言葉はX社でいう~」という状況が発生するたびに、部門長はその発言者がY社出身であることを意識させられて、元々買収案件に反対だった部門長は発言者に敵対意識を持ってしまっているのではないかということである。

部門長の怒りを治めたいからという理由ではないにしても、言葉の統一は早急に行ったほうが現場の生産性は上がるのではないだろうか。「この言葉はX社でいう~」といったような言いなおしの発生を防ぎ、また現場でなんとなく使っていた言葉を明確に定義づけることによって、元々その言葉を使っていた人の理解も深まり、ニュアンスの取り違いが起きにくくなるはずだ。

M&Aに限らず、出自が違うと必ず「自分のところではこうだった」という比較が起きてしまい、各々が自分の慣れた方法でやってしまいがちである。大まかな業務やシステムに関しては、M&A後統一されることが多いだろうが、細かな日常業務に対応する際には、まず言葉の統一から行って、各々に統一する意識を芽生えさせることが必要なのではないだろうか。

MAVIS PARTNERS アナリスト 北川和道