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ビジネスの潤滑油としての根回し~「倍返し」の成功裏に根回し有り~

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム48

敵をも味方につける半沢直樹の根回し

2020年に大ヒットしたドラマ半沢直樹は、普段はテレビを見ない私も、毎週欠かさず見てしまうような魅力的な作品であった。どこの会社・組織にもありそうな人間模様を具に描いており、現代のビジネスパーソンにとっての「勧善懲悪劇」とも言うべき痛快さが多くの人々を魅了した理由だと感じている。同作は堺雅人演じる主人公の半沢直樹が、銀行内や取引先で渦巻く各々の思惑の中で、逆襲を進めていくストーリーである。その中でも印象的なのが、主人公の半沢と香川照之演じる大和田常務との絶妙な利害関係な中で掛け合いの場面である。それぞれが味方になったり敵になったりと、状況は場面によって刻一刻と大きく変化していく。その中で半沢は、大和田の利害を鋭く突いた交渉や取引に臨んでいき、大和田を含めた関係各所に周到な根回しを行い、最終的には頭取が参加する経営会議で、意のままに自らの取り組みへの承認を取り付けていく。ドラマとはいえ、相手の利害を考え抜いた上でキーマンの同意を取り付けていく半沢の姿からは学ぶべき点も多いのではないか。

根回しはキーパーソンの当事者意識を高める

「根回し」は、特にビジネスを進める上での重要事項について、事前に関係者の了承を得ておくことである。根回しという言葉を聞くと、どちらかというとネガティブな印象を持つ人が多いのではないか。(事実、私も根回しに対しては、会議前に多大な労力をかけて関係者と調整を進めるイメージを持っていたため、ネガティブな印象を持っていた。)しかし、何故そもそもビジネス上で根回しが行われているかを考えると、経営上の重大な意思決定の前に、承認する立場である経営陣や上司のフィードバックを事前にもらい、本番の議論までに反映しておくといった、建設的かつポジティブな側面があるからだとの答えに至った。実際に我々がご支援させていただいているクライアントからも、役員が同席する経営会議の数週間前に、役員に近い立場の方から、承認側視点での事前フィードバックをもらう機会をいただくことがあった。事前のフィードバックは、報告内容のブラッシュアップに繋がることはもちろんのこと、当日の会議でも、その方から報告内容を元にした次のアクションに関する有意義なご発言をいただくなど、建設的な意見を引き出すことができた。根回しは、根回しをしたキーマンの当事者意識を高めるといった副次的な効果もあるのだと、この時痛感した。もちろん、事前の根回し対象を絞らず多くの人にあたってしまっては、膨大な労力が割かれてしまうことに繋がってしまう。しかし、時として根回しは、キーマンから重要意見を引き出し、経営会議での意思決定に役立てることができる。適切なキーマンにあたり、ビジネスを動かしていくことにも気配りができるよう努めていきたいと感じた出来事であった。

M&AのPMI推進にも、根回しの考え方が応用できる

M&Aに関わる検討事項は経営上のトップマターであり、その推進にはトップや責任者の腹落ち感やコミットメントが肝となる。特に買収前と比較すると、買収後に進めるPMIは、親会社・子会社での利害関係者の数は増えるため、束ねる立場となるトップの納得感を高めておくことが重要である。トップの意思決定時の腹落ち感やコミットを確保する上では、トップやキーマンの当事者意識を高めておくことも必要事項の一つである。M&Aの意思決定時には、事前にトップやキーマンへの会議の参加依頼、難しければ根回しを進めるなど、水面下で取るべき手段を講じておくことを忘れてはならない。組織図には現れない意思決定構造も見抜き、トップやキーマンを味方につけ、実行計画の承認・推進を得られるか。人を動かすには、「情理」両面でのコミュニケーションが重要だということを心得て、クライアントの支援に努めていきたい。

MAVIS PARTNERS アナリスト 橋本良汰