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パイロットテストの表向きの目的と裏目的

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム61

様々なシーンで活用される“パイロットテスト”

昨年の夏ごろ、とあるクライアントからこんな依頼が寄せられた。
「10年以上前に買収した子会社とうまくシナジーが創出されていない。これまでは子会社が単体で成長出来ていたからそれほど問題視されていなかったが、事業環境が変わり単体での成長が難しくなった今、グループでのシナジー創出に取り組みたい」
そこから半年かけて考えられるシナジーを洗い出し、それぞれのインパクトと実現可能性で評価を行い、シナジー創出に向けて取り組む事業を決定し、その事業を行うための体制を検討した。そして今まさに、検討した内容を試験的に実行に移す、いわゆるパイロットテストを行う段階に差し掛かっている。
そしてまたある外食チェーンのクライアントからは、「これまで全国どこでも同じような内装やメニューで画一的な店舗を展開していたが、消費者ニーズも多様化している中で、今後は立地や店舗形態ごとにメニューやサービスを最適化したい」という依頼があり、業態ごとに最適と思われる内装やメニュー、オペレーションの仮説を構築し、今まさにリアル店舗で実験している最中である。
このように、ビジネスの様々なシーンでパイロットテストというものは行われているし、皆様もご経験されたことがおありだろう。今回は、このパイロットテストに関して、よく言われる表向きの目的と、意識しておくと(もしかしたら)取り組みが上手くいくかもしれない裏目的を整理した。

パイロットテストを実施する表向きの目的

パイロットを実施する目的は1つではなく複数ある場合が多いだろうが、ここではあえて1つずつ整理している。まず最も一般的な目的に、「①施策の有効性を評価・検証する」というものがある。これは先ほど挙げた2つのクライアントの例でも当てはまるもので、「おそらくこのやり方が最適だと思われるが、本当にそうか検証したい」というケースだ。2つ目に、「②事前に想定していた障害を確認する」というものもある。これは、「おそらくこういうところでつまずきそうだが、実際にどの程度の障害なのか(無視しても差し支えないのか)程度を知りたい」というものである。そして3つ目に、「③想定していなかった障害を発見する」というものもある。パイロットテストの前には、机上で様々なリスクに対して検討が行われるが、実際にやってみないとわからないことはどうしても出てくる。これらの未検討のリスクをパイロットテストで洗い出し、解決策を検討し、仮説をブラッシュアップするのだ。そして4つ目には「④成功体験を積み重ねる」というものもある。パイロットを行うということは、なにか新しい取り組みにチャレンジしているということである。その取り組み推進者のモチベーションを維持するためにも、まずは小規模でやってみて成功体験を積み重ねるということも重要である。

パイロットテストの裏目的

一方で、上記のような目的以外にも、もう少しマインド的な要素を踏まえた裏目的も存在している。例えば、「①改革に向けた心の準備をする」というものだ。パイロットを行う取り組みの有効性を認めていても、これまでのやり方を変えたり、新しい取り組みを行ったりすることは心理的なハードルがつきものだ。まずは小規模かつ変更可能なパイロットテストを実行することで、本格導入に向けて体制だけではなく心の準備をするのだ。そして、もう一つ重要なものとして「②反対派を取り込む」というものもある。新たな取り組みを行う際には、抵抗勢力や非協力的な人は必ず出現するものである。パイロットにあたってはそういった人を、出来れば当事者に巻き込む、それが難しくとも意見を仰ぎ、懸念を引き出すことが重要である。そうして抽出した意見に対して真摯に向き合い対応することで、パイロットが成功したあかつきには「XXさんの意見があったから上手くいきました」とコミュニケーションすることが出来る。反対派の人たちも、自分がパイロットの成功に貢献したと感じることが出来れば、強力な味方になることもある。以上のように、パイロットテストを実施する際には、表向きの目的だけではなく、裏目的も意識してみてはいかがか。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 渡邊悠太