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従業員のエンゲージメントを高める意味

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム 279

実務の中での気づき

MAVISは今、マネージャー以上の肩書を持つのは私と代表の田中だけだ。だが、下のスタッフでも役割上プロマネを任せられるメンバーが増えてきたので、私がプロマネ半分・品質管理半分的な立ち位置になり、メインのプロジェクト運営は別のスタッフに任せる、という体制も増えてきている。その際に、プロジェクトメンバーの「エンゲージメント」の高さが、私自身の仕事のやりやすさに直結すると感じたことで、「なるほどエンゲージメントを高める必要は確かにあるな」と感じた。

スタッフのエンゲージメントが高いと、私が「やりたいけれど手が回っていない」と思っていた作業を、メンバーが自ら気づいて先回りして進めてくれる。あるいは、細かい指示を出さなくても自律的に工夫を凝らしてアウトプットを仕上げてくれる。これまで当たり前のように「エンゲージメントが高い方がいい」と思って頭では理解していたことが、身をもって実感できた。誤解を恐れずに言えば、「自分が楽をするためにこそ、スタッフのエンゲージメントを高める意味がある」と気づいたのが正直なところだ。もちろん結果的に、私だけが楽になるのではなく、チーム全体がスムーズに回り、より大きな成果に集中できるということでもあり、アウトプットクオリティの向上にもつながる。

大企業ではどうだろう?

MAVISのような小規模な組織では、社員のエンゲージメント向上効果を即座に感じやすいと思うが、大企業ではどうだろうか。大企業では、各部・各社員の役割分担が明確に決まっている(と思う)ので、社員のエンゲージメントが高くても低くても「やる仕事」が変わらないようにも感じる。さらに、一人の社員がどれだけ主体的に頑張ったとしても、組織全体から見ればすぐに目に見える成果にはつながりにくい。経営層にとっても、数万人の従業員一人ひとりのモチベーション変化を直接実感するのは難しいはずだ。
昨今、従業員エンゲージメントを高めると生産性が上がるとか、離職率が下がるとか色々言われているので、「エンゲージメントを高める意味」は頭では理解できても、大企業では「エンゲージメントを向上させた実感」を得ることが難しいのではないか。と感じた。

エンゲージメント向上はいつから言われてきたのか

今でこそ誰もが“従業員エンゲージメント”は大切だ、と誰もが頭では理解して言葉としても発するようになっているが、そもそも、「エンゲージメント」という言葉自体が注目されるようになったのは1990年代以降らしい。そして、実はもっと古くから議論の源流は存在していたとのことだ。少し調べてみると、1930年代、アメリカのとある工場で行われた実験では「照明の明るさ」よりも「従業員が“注目されている”」という心理的要素の方が生産性に影響することが分かったらしい。これがビジネスにおける「人間関係論」の始まりであり、従業員の心理的関与に光が当たった最初期の事例と言われている。その後、マズローの欲求5段階説(1943年)やハーズバーグの動機づけ理論(1959年)などで「給与や条件だけでなく、成長や承認が人を動かす」との理解が広がり、1970年代には「仕事特性モデル」が登場し、仕事に意味や自律性があるほどモチベーションが高まるとされた。そして1990年にウィリアム・カーンという研究者が初めて“エンゲージメント“を理論的に語り、今日の「人的資本経営」の文脈に至っている。

大企業がエンゲージメントを高める意味

冒頭私が感じた「部下のエンゲージメントが高まれば自分が楽になる」というのは小規模な組織・チームにおいてのみ感じられる実感なきもするが、前述の各種研究では、“大企業がエンゲージメントを高めることの効果”は何と語られているのだろうか。どうやら教科書的には2つあるらしい。1つ目は、「変化への対応力の強化」だ。市場や社会環境が激しく変化する中で、トップの指示だけでは動きが遅れるが、現場の従業員が自律的に考え、裁量の範囲で最適な行動を積み重ねることが、組織全体のしなやかさにつながる、とのことだ。2つ目は、「リスクの低減と価値創造」。エンゲージメントが低いと「改善提案が出ない」「不正を見過ごす」「優秀層が流出する」といったリスクが高まるが、逆に高ければ、改善活動やブランド体験の向上といったプラスの成果が積み上がると言われている。

うーむ。やはり、頭では理解できるが、「こういう効果があるからエンゲージメント向上施策を打っていきましょう!」と言われても本気でエンゲージメント向上に取り組む気になりにくいように思う。仮に、エンゲージメントが向上しても、「変化への対応力が上がったなぁ」とか「リスクが低減して、価値創造が強化されたなあ」と感じることはあるのだろうか。

エンゲージメントを向上させる意味。各社では実際のところ何と語られ、各社員、特にマネジメント層はどのように自分事化して、エンゲージメント向上施策に取り組んでいるのか、各社とディスカッションしてみたいものである。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太