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合理と情理のバランス

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム94

合理主義への傾倒はある意味逃げ

「コンサルタントは合理主義者」このようなイメージを持っている方は多いのではないだろうか。たしかに、コンサルタントの仕事では、設定した論点に対して、ファクトベースで論理的に思考して、解を導き出すということが必要になる。しかし、コンサルタントに限らず、信頼されるビジネスマンは、本当に合理主義者なのだろうか。
つい先日、コンサル歴が20年を超えるベテランのコンサルタントと話す機会があった。その方曰く、論理的な思考にこだわるのは逃げだと言う。「ファクトとロジックでガチガチに固めれば間違ったことは言わないが、それだけでビジネスは動かせない。経営者のような立場の人の心を動かすには、合理を超えた情理が必要。」それを聞いて、たしかに合理主義を貫いた先に、本当に信頼されるコンサルタントになることは出来るのか?と思った。ロジカルに考えることは当然必要なプロセスだとは思うが、実際に意思決定を行うのは人であり、人は必ずしもロジカルに導き出された答えを鵜呑みにして、機械的に意思決定を行うわけではないので、合理的な思考プロセスだけで様々な関係者を納得させ、ビジネスを前に進めることは難しいのではないかと。

会社を動かすのは人、人を動かすには情理も必要

かつてとあるメーカーの事業再編プロジェクトに関わったことがある。その会社の扱っている商材は、国内のみならず海外でも需要が右肩下がりで、一部の商材に関しては、ほとんど利益が生まれていないという状況だった。そこで、今後技術革新も見込めず、利益率も低い商材は切り離す方向で検討を進めていたのだが、その中で人員整理の必要性も見えてきた。
当時そのメーカーは、株主である投資ファンドからも、不採算事業からの撤退と人員整理を要求されていた。たしかに合理的に考えれば、不採算事業に関わる社員はリストラし、それ以外の事業に経営資源を集中させるというのが、最適解になる。しかし、それを我々コンサルタントが改めて強調して、リストラを断行すべきと言うのが正しいのか?改めて考え直した。
机上の計算でリストラを正とすることは簡単。しかし、リストラの対象となる方々は、経営メンバーもこれまで一緒に働いてきた仲間である。そういった情理に関わる部分も考慮して、出来る限りリストラが発生しない形で、事業再編のプランを提案したところ、経営メンバー・投資ファンド双方が納得する形に着地させ、再編に向けて動き出すことが可能になった。

ファクト&ロジックは必要だが、検討の材料に過ぎない

一方で、当然ながら、合理をないがしろにした所謂KKD経営(KKD=勘・経験・度胸の略)も良くない。
かつて、とある新規事業開発のプロジェクトに関わっている際に、検討の進め方を提案したら、そのクライアントの役員から「論理的にどうとか時間をかけて考えるのではなく、これまで培った経験をベースにスピーディーに検討を進めていくべきだ」と言われたことがある。しかし、その会社のこれまでの新規事業は、ほとんどが失敗に終わっており、その要因は、合理をないがしろにしたKKDによる検討だった。
コンサルタントを始め、合理主義を好む人間からすれば、KKDはナンセンスである。しかし、実際に意思決定を行う方々は、その会社で長年の経験を積んで、会社に対する様々な想いを持っていることが多い。だから、論理的な思考で導き出した解をゴリ押しして、無意味にぶつかるのではなく、論理的な解はあくまでも検討材料として、そういった経験豊富な方々の知見も織り交ぜながら議論していくプロセスが重要だと思っている。

合理的な思考の結果を盲信しない

そもそも論理的な思考のインプットとなっている情報は、常に不完全な情報であるし、そこから導き出された解が正しいとは言い切れない。昨今、「ビッグデータ」がもてはやされており、それをインプットにすれば、すべての判断が正しく行われるような錯覚に陥りがちだが、仮に「ビッグデータ」を活用できたとしても、それで必要な情報をすべてインプットできると言い切れるのだろうか。
M&Aにしてもそうである。どんなに完璧なロジックで検討を進めて、買収判断を下したとしても、想定と異なる事態は発生しうると思っている。結局最後には、意思決定を行う経営層等が持っているKKDが必要になるのではないだろうか。
コンサルタントとして、合理を重視しつつもそれを盲信せずに、クライアントとともに考えていけるようなパートナーになっていきたい。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏