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M&Aが苦手なのは日本人の性質か?

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム80

日本企業はM&Aが下手?

今でこそ様々な企業がM&Aに関心を持ち、非連続的な成長のための1つの手段としてM&Aを戦略オプションの一つに入れている。一方で、ある調査によれば、2000年代半ば頃まで、日本においてM&A市場は発達しておらず、全くの第三者による買収はごく一部の企業しか行っておらず、ほとんどのM&Aはグループ企業間での再編目的だったらしい。昨今ではどんな業界でも国内市場の縮小が叫ばれ、成長のために国内企業が海外企業を買うことは珍しくなくなったものの、海外企業から買収される、つまり買われる立場になる依然として経験は少ないようだ。実際、2020年のM&A件数を見ても、In-In(日本企業による日本企業の買収)は2,944件、In-Out(日本企業による海外企業の買収)は557件である一方、Out-In(海外企業による日本企業の買収)は229件とのことだ。その意味で、まだM&Aのボーダーレス化は進んでいないといえるかもしれない。
以前、ある大学教授とディスカッションしていた際に、「日本企業は買うよりも前に、まずは売る経験をした方がいい。不動産と同じで、買ってばかりいるのではなく、売り手の立場も経験しないと交渉が上手くならない。」というような話を伺ったことがあるが、これも同じことを指摘していたのだろう。
実際には、当初の目的を達成できたかどうかでM&Aの巧拙は語られるべきだが、経験の多寡で言えば、いまだに日本企業はクロスボーダーM&Aが苦手と言えるだろう。

M&Aに向かない日本人経営者の性質

日本企業が成長を求めてM&Aをすることが少ない(少なかった)理由の一つには、安定株主が多く、市場のプレッシャーを受けにくいからという面もあったようだ。実際に、コーポレートガバナンスコードの策定など、ガバナンス改革が進められている背景の一つにはこの現状を解消しようとする狙いもある。
一方で、日本企業がM&Aに及び腰なのは、そうした制度的な面だけではなく、“楽観的ではなく、かつリスク回避的である”という日本人の性質も関係しているらしい。日本企業は欧米の企業と比べると、実行してすぐに成果が出るかわからない長期投資にあまり積極的ではないらしく、だからこそM&Aに限らずR&Dに対する投資も少ないらしい。今後は、取締役会が、性格的にリスクをとることに積極的な経営者を見極めて、社長に任命するということが、日本企業が成長していくための制度的な課題になるかもしれない。
他方、スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードが浸透することで、株主の圧力という意味では、今後M&Aに積極的になっていく可能性はあるものの、“楽観的ではなく、かつリスク回避的”という日本人の性質は日本の地形的な特徴に起因するため、一朝一夕では変わらないともいえる。どういうことかというと、日本は元々急流の河川が多く、火山活動や地震が活発で、梅雨や台風もあって水害も多く、人と人が協力し合わなければ生活が成り立たず、地理的に楽観的になり切れない土地柄だったようである。

マインド面での日本企業の課題

上記のように、日本人の特徴が地理的なものだとして、脈々と受け継がれてきた性質ならば、いくら取締役会が経営者に対して適切なリスクをとるように働きかけても、トップマネジメントがリスクを取ってコミットするとは言い切れない。もともとリスク回避的でM&Aをしたくない経営者が株主の圧力に屈してM&Aに乗り出しても価値創造にコミットできないだろう。今後、日本企業が成長をしていくためにM&Aを積極的に活用するためには、リスクの概念を変えていくことが課題かもしれない。要するに、現状維持でいることが一番のリスクで、M&Aを含めた手段を駆使しなければ悲観的な未来が待っている、というような認識を持ち、“リスクを回避するためにM&Aをする“という意識を持つことが必要なのではないだろうか。
最近は、現状維持がリスクと考える人が特に20-30代を中心に増えているような気がしていて、実際に私の周りでも大企業にいることがリスクだから起業するような知人も増えている。この世代が10年後20年後に日本企業の経営陣になっていったときに、本格的に日本企業のM&Aが積極的になるのかもしれない。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太