- M&A戦略 MAVIS PARTNERS株式会社 - https://mavispartners.co.jp -

人の役に立つということ

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム 292

“コンサル“という仕事

昔からコンサル業界は激務だと言われる。クライアントが抱える課題を特定し解決するために、膨大な受領資料を読み解き、膨大なリサーチを行い、短期間で百件を超えるインタビューやフィールド調査を行う。“プロジェクト“という仕事のスタイル上、スケジュールもタイトになりがちで、「夜指摘されたフィードバックを明日の朝までに反映しないと間に合わない」というようなケースもある。質の面でもハイレベルなものを求められるため、上司からのフィードバックもロジカルかつ視座が高く、細かい。クライアントも各企業のエース級あるいは役員クラス、場合によっては社長になるのでちょっとやそっとのアウトプットでは満足されない。そのため、若手の頃は全く役に立たず、「自分はこんなに頭が悪かったのか」と、追いつめられることがある。コンサルならば、おそらく誰しも精神的にも肉体的にも参ってしまった経験が少なからずあるはずだ。私にもある。

精神的に折れた瞬間

今から5年以上前になる。当時、小さなプロジェクトならばマネージしたことがあったが、初めて比較的大きな規模のプロジェクトのマネージャーを担うことになった。クライアントからは、支社長・役員クラス合わせて毎回20名近いメンバーが会議に参加するようなプロジェクトだった。最初はやる気に満ち溢れていた私も、毎回の会議資料を自分ですら満足が行く品質に仕上げることができず、会議でもうまく立ち回れず会議時間は毎回超過、にもかかわらず未消化のタスクが毎回残り、自分の実力不足を痛感する毎日に徐々に精神的に追い詰められた。タスクの進捗が滞ることが怖くて寝られなくなり、平日も土日も机に噛り付いていた。次第に会社に行くことも怖くなり、「会社に行く途中に何か事故に巻き込まれれば会社に行かなくて済むのになあ」と毎日本気で考えていた。そんなある時、プツっと緊張の糸が切れ、会社のあるビルの前で立ち止まり、そこから先に進めなくなった。無断で会社を欠勤した。

折れた後の立ち直り方

当然、PJメンバーから何件も連絡がきたが、全て無視した。「万が一最悪なことが起きていたら心配だから連絡だけくれ、そうしないと家に押し掛ける」という連絡にだけ(家に来てほしくなかったので)返事をすることができた。翌日の会議は休ませてもらった。
本来だったら自分が仕切るはずだったクライアントとの会議の時間、ぼーっと映画を見て過ごした。「自分がいなくても時間が来れば会議は始まり、時間が来れば終わるんだなぁ」と当たり前のことを思いながら、「むしろいない方が上手くいっているんじゃないか」とも思ったので、PJからアサインを外してもらうことも頭をよぎっていた。ただ、その日の夜に「クライアントの社長がものすごく心配していた」という連絡を受け、「自分は何をやっているんだろう」と我に返り、翌日、出社することができた。当時、「もう絶対戻ってこないと思ったのに、よく一日で戻って来たね」と社内でも驚かれたし、自分でも「よく一日休んで会社に行く気になれたな」と驚いていた。会社に行く気になったのは、MAVISのメンバーからのフォローではなく、「クライアントが自分のことを心配してくれていた」からだった。
多少立ち直ったからと言ってすぐにパフォーマンスが改善されるわけではなく、実力不足であることは変わらないのだが、歯を食いしばりながらなんとかPJを運営し、無事リピートの案件も獲得することができ、そのクライアントとの関係もつなぐことができた。
私が言われた一言は何もドラマチックなものではない。クライアントからしたらこれまで頑張っていた若者が急に休んだから「早く良くなるように伝えておいてください」といった社交辞令的な内容のような気もする。今では、そんなことがあったことすら覚えていないかもしれない。だが、「全く役に立っていないと思っていた私でも、クライアントから“心配される程度”には認識されていた」と思えたことが当時の私にとっては心の支えになったのかもしれない。

他社貢献とは

先日のコラムで、田中が「知的好奇心より他者貢献タイプが続きやすい」と書いていた。私もそう思う。おそらくクライアントがいる全ての仕事で共通するのではないかと思う。“貢献”ということを文字通り綺麗に解釈するのではなく、「クライアントに舐められたくない」とか「すごいと思われたい」とかそういう欲求でもいい気がする。何事も相手がいることを理解している人の方が良いアウトプットを出せる気がするし、“相手がいる”ということが最後の最後に自分を支える力になる。逆にいうと、“人の役に立つ“と言った時の”人“の顔が具体的に思い浮かばない場合に自分自身を支えるものが何なのか。経験がないのでわからない。コンサルに限らず、これからもクライアントがいる仕事を続ける限り、“他者への貢献心“は変わらずに持ち続けたい。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太