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今年のM-1を見て考える”正しい”だけじゃない価値の出し方

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム 293

特に印象に残った今年のM-1

今年のM-1も大きく話題になっていたが、お笑いと言えば、代表の田中はお笑いが大好きで、打ち合わせの時に
「これはもう、ネタの“フリ”が弱いよね」
「会議で発言するための心構えは、ひな壇芸人と一緒」
などと、コンサルの仕事をよくお笑いにたとえて話すほどである。
かくいう私もお笑い好きで、今年もM-1の敗者復活戦から最終決戦までテレビにかじりついて見ていた。
ここ数年のM-1は、「M-1で高得点を取るための漫才」という競技型のスタイルがどんどん洗練されてきていて、その極地として、昨年まで令和ロマンが「M-1を優勝するための漫才」をほぼ完璧な形で体現し、史上初の2連覇を達成した。
そこに続く今年、優勝したのは、たくろう。
令和ロマンは、構成もワードもキャラクターも含めて、M-1というゲームの構造に対して徹底的に誠実なコンビだと思う。一方で、たくろうは「自分たちの人間としての面白さ」や「素材」を徹底的に信じて、その魅力がちゃんと笑いに変換されるよう、同じスタイルを磨き続けてきたコンビだ。
どちらも「ウケることを目的にしている」点は同じだが、ウケ方の作り方が違うと感じた。

令和ロマン型コンサル:構造に誠実であること

令和ロマンの漫才を見ていると、「4分」という尺の使い方がとても整理されている。
どこで世界観を提示して、どこで変化をつくって、どこで一番大きな笑いを取りにいくのか。
フリとボケとツッコミの配置、情報量のコントロール、ボケのバリエーション。
そういった要素を丁寧に積み上げながら、M-1という競技のルールや審査員の傾向もふまえて、「こうすれば勝てる」という構造を理解したうえで戦っているように見える。
コンサルで言えば、
・論点をきちんと分解し
・ストーリーラインを組み立て
・スライドを破綻なく整理し
・会議の進行を設計どおりに進めていく
といった、「構造を外さない動き」に近い。
プロジェクトを進めるうえで、これはやはり土台として欠かせない。ロジックと構造がガタガタなまま、「勢い」だけでクライアントの前に出るのは、見ていて不安になる。自分自身も、論点設計や会議のゴール設計にきちんと時間をかけた回ほど、上司からのフィードバックが具体的になり、クライアント側の理解もスムーズに進む感覚がある。
令和ロマンが示したのは、「構造に誠実であること」が、勝ち筋のひとつになりうるという事実だと思う。

たくろう型コンサル:素材を信じて、笑いに変える技を磨くこと

一方で、たくろうの漫才は、構造だけでは説明しきれない。
設定自体はシンプルなのに、ツッコミの「間」や会話のズレ方、ちょっとした表情や、声のトーンの置き方で、じわじわと笑いが起きていく。見方によっては、
「面白発言のお披露目会に見える」
「クラスの隅にいる変なやつを嘲笑するだけの漫才じゃないか」
といった評価もある。
たしかに、令和ロマンのような教科書的な美しさとは違うし、構成だけを切り出して見れば、粗く感じるところもある。
それでも、客席に今大会最大の笑いが起きたこともまた事実だ。
「たくろうらしさ」としか言いようのない違和感や、人間としての癖を、そのまま舞台上に持ち込み、それがちゃんと笑いに変わるところまで持っていく。その意味で、彼らは「素材としての面白さ」を信じ続けてきたコンビだと思う。
しかも、このスタイルは今年突然生まれたわけではない。途中で「もう少し審査員ウケしそうな形に寄せる」という選択肢もあったはずだが、彼らはあの空気感や間合いを手放さず、同じ方向性を何年も続け、少しずつ精度を上げていった。その結果として、ようやく決勝に届き、優勝までたどり着いている。
コンサルの世界にも、これに似た瞬間がある。
・構造はまだ、そこまで完璧ではない
・図もラフで、まだ粗い仮説の状態
それでも、
・クライアントの口ぐせがそのままタイトルに入っている
・組織の「言語化されていなかったモヤモヤ」を、そのままスライドに貼っている
・あえて少し極端な問いや仮説を投げかけて、議論を起こしにいく
といった資料や問いかけのほうが、クライアントに刺さることがある。
それは、「この会社で、この人たちと話すなら、こういう聞き方・見せ方のほうがいいはずだ」という、自分なりの肌感覚に正直でいることでしか出てこない。

正解を追うだけのコンサルから、「構造」と「素材」を両方使うコンサルへ

今年のM-1を見て、自分の仕事に引き寄せるなら、意識しておきたいのは次の二つだと感じている。
一つ目は、令和ロマン的な「構造への誠実さ」をちゃんと鍛えること。
論点設計、ストーリーライン、会議のゴール設計。
ここから逃げないことが、まずは前提になる。
二つ目は、たくろう的な「素材への誠実さ」を許容すること。
自分の経験や違和感、クライアントとの会話の中で引っかかった一言。
そういった自分の感触を、きちんと資料や問いの形にして持ち込んでみること。
「少し荒いかもしれない」「完璧ではないかもしれない」と感じる案でも、一度は出してみる。
その打席を重ねていく中で、自分なりの「ウケる形」がだんだん見えてくるのかもしれない。

M-1の審査員が年々多様になっていくように、コンサルの仕事にも評価軸はいくつもある。
その中で、「構造としての正しさ」と「自分の素材を使い切ること」の両方を意識しながら、クライアントにとって本当に意味のある“ウケ”を取りにいけるコンサルでありたい。
そんなことを、今年のM-1を見ながら改めて考えていた。

MAVIS PARTNERS アナリスト 定永悠樹