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現代に「地動説」は存在しないか

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム 251

漫画「チ。」から見る「現代の地動説」

「チ。」という漫画作品をご存じだろうか。「チ。」は、15世紀のヨーロッパを舞台に、当時のキリスト教において異端思想とされていた地動説に魅せられた人々の物語である。彼らは教会や権力者の圧力に屈することなく、真理を追求し続けた。史実においても、コペルニクス、ガリレオなど多くの優秀な科学者が地動説を提唱したが、世間一般に受け入れられるまでには長い年月と犠牲があった。今では考えられないが、地球が宇宙の中心であり天体が地球の周りを回っているという天動説が、数百年以上多くの人々に盲信されていたのだ。
本作品を読んでいると、現代において地動説は存在しないが、現在もかつての地動説のように盲信されている「現代の地動説」があるのではないかという考えが湧いてくる。実際に地動説ほど大きな事象ではなくとも、今まで当たり前に盲信されていたことが否定されたケースは身近に存在する。私は趣味で麻雀やポーカーなどのボードゲームをするのだが、それらの中でも麻雀における「ピンフのみはダマ」など、今まで良手と言われていたが現在は悪手とされている過去の定石が多く存在している。より一般的な事例だと、数年前にブームとなった水素水は科学的な根拠がないにもかかわらず身体に良いものとして扱われていた。現代社会ではインターネットやSNSが普及し、玉石混交の情報に溢れているため、「現代の地動説」を正しく見極める力は日々重要性が高まっていると考えている。

「現代の地動説」を見極める「空・雨・傘」という考え方

では、どうすれば「現代の地動説」を正しく見極めることができるのだろうか。
その一つの手法として、コンサルティング業界でよく用いられる「空・雨・傘」というフレームワークが有効であると考える。「空・雨・傘」とは「空(事実)を見ると雨が降りそう(解釈)なので傘を持って出かけよう(行動)」という問題解決のフレームワークだ。この中でも特に重要な部分は、「空(事実)から見出す雨(解釈)」であり、「現代の地動説」を見極める際にも、どのような事実から何故そのような解釈をしているのか、抜け漏れている解釈を否定する事実が存在しないのかを自分の頭で考え直すことが重要である。例えば、地動説が否定される事実としては天体における太陽系惑星の逆行現象などが挙げられる。
私が考える「現代の地動説」の事例を一つ紹介しよう。「低気圧頭痛」である。私の周囲でも「低気圧だから頭痛がする」といった意見をよく耳にする。これは「低気圧という事実が頭痛に影響するという解釈」であり、多くの人が提唱するため一見確からしそうに聞こえるのだが、本当に低気圧が頭痛に影響していると言えるだろうか。
この解釈を否定する事実として、台風の気圧よりも飛行機内の気圧の方が低いことがある。そもそも地表における低気圧というのは上昇気流によって、地表の気圧が低下している状態のことだ。台風は低気圧の中でも特に気圧が低く、強い台風だと900hPa程度まで気圧が下がる。補足だが一般的な晴れの日は1020hPa程度であり、曇りの日は1000hPa程度である。一方で、飛行機内の気圧は800hPa程度と台風よりも大きく気圧が下がるが、国際線の10時間以上のフライトでも頭痛を訴える搭乗者は殆どいない。これらは「低気圧という事実が頭痛に影響するという解釈」の否定するものであり、「低気圧頭痛」には低気圧ではない別の要因が存在するのではないかという示唆が得られる。

コンサルタントの介在価値

上述のように、現代において地動説は存在しないが、当たり前に信じられている「現代の地動説」は存在し、それはM&Aや経営戦略においても同様である。弊社代表の田中も著書”M&Aを失敗させない企業買収先「選定」の実務”において、「M&AにおけるPMIフェーズでの問題は事業責任者のせいとされるが、PMIでの失敗のほとんどは事業責任者ではなくPMIフェーズの前工程でのつまずきに起因している」と述べている。
昨今、生成AIによってリサーチやデータ整理などの業務は代替されつつあり、今後さらにその流れは加速するだろう。そのような中でこそ、事実を多角的かつ客観的に見て適切な解釈をする「現代の地動説」を見極める力が非常に重要であり、それこそがコンサルタントの介在価値ではないだろうか。
一般的に言われているから正しいなどではなく、空を見て、適切な解釈をすることで、最適な傘をクライアントにさすことができる、そのようなコンサルタントで私はありたい。

MAVIS PARTNERS アナリスト 西井建人