連載:ESG

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#7. ESGの歴史⑤~日本への展開~

2021-04-20

日本での広がりのきっかけ

PRI(Principles for Responsible Investment、国連・責任投資原則)が2006年に誕生した時点で、日本ではESGは注目されていなかった。リーマンショックで欧米企業が積極的にESGを採用し始めた頃にも日本で取り入れられることはなかった。日本でESGが注目されることになったのは、GPIF(Government Pension Investment Fund、年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年9月にPRIに署名したことが、きっかけであった。GPIFは、2017年7月、市場平均のインデックスより投資パフォーマンスが高いことを理由に、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数等のESG指数を採用して1兆円の運用を開始すると発表した。更に2017年10月、GPIFは投資運用原則を改正、全ての資産についてESG要素を考慮する旨を発表、GPIFの運用会社評価基準に投資先企業との対話によるESGスコアの改善の項目が入っている。

政府の取組み

ESGに関する政府の動きとしては、GPIFがPRIに署名したのと同時期、2015年9月に国連加盟国全ての193カ国でSDGsに合意、採択したことがきっかけであった。その後、政府はSDGsへ積極的に取組みを始め、2017年12月、全国務大臣を構成員とするSDGs推進本部が「SDGsアクションプラン2018」を策定した。環境省でも2017年1月に「ESG検討会報告書」を公表、経済産業省も同年5月、「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンスーESG・非財務情報と無形資産投資―(価値協創ガイダンス)」を策定している。また、G20における財務大臣及び中央銀行総裁会合より要請を受け、2017年6月、FSB(Financial Stability Board、金融安定理事会)はTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース)を設置、日本でも経済産業省が2018年8月にTCFD研究会を発足し、同年12月、「TCFDガイダンス」を公表した。2019年5月、経済産業省、金融庁、企業などでTCFDコンソーシアムを設立し、2021年4月時点で324企業(団体)が参加している。TCFDは、企業に対し、自社の気候関連のリスク・機会を評価し、その財務的インパクトを把握し、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4項目の開示を推奨しているものである。

企業への影響

スチュワードシップ・コードについても2017年5月、金融庁が改訂、その原則3の機関投資家が投資先企業の状況を的確に把握すべき項目に、ESG要素を含む非財務情報が記載された。更に2020年3月に再改定されたスチュワードシップ・コードでは、原則1の指針において、「機関投資家は、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG 要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るべきである」とESGを更に強調する内容としている。2014年にスチュワードシップ・コード、続いて2015年にコーポレート・ガバナンス・コードが策定された際にはROEを8%以上にすべきことに注目を集めてしまったが、その後の政府の取組みや機関投資家からのエンゲージメントの影響もあり、日本の企業もこのところ、ESGに本格的に取組みを始めた。従来のアニュアルレポートに代えて財務情報とESG関連の非財務情報を併せて掲載する統合報告書を出し、ESG指標を開示する企業が増えてきている。なお、環境省、経済産業省、金融庁、厚生労働省、文部科学省、国土交通省と多くの省庁がESGに関わっているが、他の政策同様、縦割りの状態のため、政策の停滞を招きかねないことが危惧される。

まとめ

① 日本でESGが注目されることになったのは、GPIFが PRIに署名、運用にESG指数を採用したことが、きっかけである。
② 政府のESGへの取組みは国連でSDGsを採択したのがきっかけ、TCFDコンソーシアムを設立、賛同する企業が増えている。
③ 政府の取組みや機関投資家からのエンゲージメントの影響もあり、日本の企業もESGに本格的に取組み始めている。

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