連載:ESG

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#6. ESGの歴史④~ニュー資本主義~

2021-04-14

オールド資本主義からニュー資本主義へ

ESGを考慮しながら利益を追求して経営を行う資本主義は「ニュー資本主義」と呼ばれている。これに対して、環境や社会を考慮した経営は利益が減るとする考え方は「オールド資本主義」と呼ばれている。このニュー資本主義の考え方は夫馬賢治氏が著書「ESG思考」の中で触れている。著書での定義によれば、「ニュー資本主義は、環境・社会への影響を考慮すると利益が増えると考える」ことを言う。このオールド資本主義からニュー資本主義へ世の中が変化した転機は、やはりPRI(Principles for Responsible Investment、国連・責任投資原則)の誕生としている。その後、PRIに署名する機関投資家・アセットオーナーの増加やESGに関する評価が投資基準にほぼ標準で入っている昨今、ニュー資本主義が時代の潮流となりつつあると言える。利益だけを追求すれば企業が成長できる従来の資本主義の時代ではなくなってきたということだ。ハーバード・ビジネス・スクール教授、ジョージ・セラフェイム氏(George Serafeim)がハーバード・ビジネス・レビュー2021年1月号に掲載した論文によると、「社会のメガトレンドに沿って、長期的な視点で経営される企業は、予想外の衝撃や苦境に直面しても立ち直りやすい」とのことである。「新型コロナウイルス感染症の広がりを受けて、世界の株式相場が弱気に転じて以降の数週間、ESGファンドの大半はベンチマークを上回るパフォーマンスを示した」と述べている。リーマンショックをきっかけに、ESG経営が注目を集めるようになったが、新型コロナの感染症の広がりにより、ESG投資の堅牢性が示されることになった。

ESG経営の同質化

日本はESGの点で立ち遅れていて、これからの感があるが、PRIの誕生以降、積極的にESGに取り組んでいる欧米を中心とした企業に、セラフェイム氏によるとESG経営の同質化が見られるとのことである。ロンドン・ビジネス・スクールのイオアニス・イオアノウとの共同研究によると、「世界の約4,000社のデータを分析した結果、大多数の業界では2012年から2019年までの8年間に、ESG施策の類似化が進んでいた」とのことである。つまり、「サステナビリティやガバナンスの分野では各社が横並びの取り組みをする傾向が進み、戦略の差別化に失敗している」のである。二酸化炭素排出量低減や廃棄物削減、ダイバーシティへの取組みは企業の経営の持続化に必要な施策ではあるが、企業独自の取組みを考えないと長期的な成長とまではいかない。ESGでも競争戦略、差別化が必要なのである。

ESGでの差別化

では、どのように差別化していけばいいのか。まず、ESG観点でいきなりアプローチするのではなく、今の会社の事業を運営する上での経営課題を洗い出してみてほしい。そして、その経営課題についてESG観点を入れて解決を試みるのである。また、競争戦略の観点で考えると、他社に真似されにくい仕組み、ポジショニングが大事である。例えば、IBMは2009年の早期から環境、社会課題をビジネスで解決するエコシステムを構築していた。「Smarter Planet」という、環境、エネルギーなどをはじめとする地球規模の課題を、ITを駆使することで解決し、地球をより賢く、スマートにしていくことを目指す構想を立上げていた。IBMは、金融、化学・石油、電機、エネルギー、公共・教育、医療・生命科学、小売・消費者向け製品、通信、運輸の9分野に焦点を当て、パートナー企業を募った。自社をハブとしてエコシステムを築くことにより、他社に真似できない差別化したESG経営を実践していたのである。

まとめ

① ESGを考慮しながら利益を追求して経営を行う資本主義は「ニュー資本主義」と呼ばれている。
② 早期からESG経営に取り組んでいる欧米企業には取り組みの同質化が見られる。
③ ESG経営で差別化するには、事業を運営する上での経営課題をESG観点で解決するアプローチを行い、他社に真似されにくい仕組みを取り入れるべきである。

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