連載:ESG

印刷

#4. ESGの歴史②~リーマンショックの影響~

2021-04-14

リーマンショックが与えた影響

PRI(Principles for Responsible Investment、国連・責任投資原則)が、2006年4月、国連や欧米の機関投資家等により策定された少し後、2007年8月にBNPパリバがサブプライムローンの証券化商品に投資しているファンドの解約を凍結し、リーマンショックの兆しが見えた。そして、2008年9月のリーマン・ブラザーズの倒産で事態の深刻さが明るみになった。このリーマンショックは、欧米を中心としたグローバル企業のESGへの関与を加速させる要因となった。欧米企業の多くは、リーマンショックにより株価を大きく下落させ、利益を大幅に減らして経営的に大きな打撃を受け、社会的信頼を失墜させることになった。このため、これらの企業は、社会的信頼を回復し、中長期的な「サステナビリティ(持続可能性)」に取り組まなければならない状況に直面した。それまでは、社会や環境に対して直接に利益に結びつかないCSRによる社会貢献活動が主流であったが、リーマンショックを契機に、環境や社会、ガバナンスを事業と結びつける経営に舵を切った。リーマンショックで大きな金融機関が経営危機を抱える中、企業は自分達が持続可能でない状況にあることがわかり、サステナビリティを追求することの重要性を認識したのである。

グローバル企業の取組み

リーマンショックの後の2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、社会貢献活動のCSRではなく、企業の長期的成長のためにCSV(Creating Shared Value、共有価値の創造)に取り組むべきとの論文を発表した。この論文の中で、既にGE、IBM、Google、Intel、Johnson&Johnson、ネスレ、ユニリーバなどの著名なグローバル企業は、CSVに取り組んでいる旨が述べられている。ネスレは2008年、マイケル・ポーター教授のCSVについての論文発表に先駆けて、CSR報告書の名称を「Concept of CSR」から「Global Creating Shared Value Report」に変更している。この名称変更は、中長期的に事業を成功させるためには、株主価値と社会価値の両方を創出する必要があるとの考えから来ている。これら両方を伸ばすための項目として、栄養、水資源、農村の発展の3つを挙げている。また、ユニリーバは、2009年に事業と結びつく定量的な指標での目標として、社会や環境に関する項目を挙げている。紅茶の茶葉やパーム油に関する環境認証取得のためのマイルストーン、二酸化炭素の排出量の削減や食品の塩分カット等、事業において環境や社会課題に取り組むことを目標とすると公表した。このようにリーマンショックを契機に、グローバル企業によるESGへの取組みが本格化したのである。

日本での影響

日本では、どうであったろうか。欧米ほどでないにしろ、日本の株式市場も株価が下落、企業も利益を大幅に減らし、海外同様に経営に打撃を受けた。しかし、日本ではESGの取組みの本格化にはつながらなかった。日本の企業は、減収・減益と財務状況の悪化を受けて、コスト削減のためにCSR予算をカットし、欧米のグローバル企業とは真逆の方向に動いた。勿論、欧米グローバル企業も利益につながらないCSR予算はカットしているが、環境や社会課題を解決しつつ利益につながる事業に切り替えていて、環境や社会課題への取組みを止めたわけではない。これに対し、日本の企業は環境や社会課題への取組みそのものを止める決定をしたのである。多くの日本の企業は、この時点でESGに取り組むことが中長期的な企業のサステナビリティにつながることを認識しなかったのである。リーマンショック時の気づきの欧米企業との差が日本のESG経営の立ち遅れの要因の1つであった。今では日本でもこの点について気づく企業が現れているが、自社の持続可能性に何が必要であるのか、今一度考えてみてほしい。

まとめ

① リーマンショックで経営的に大きな打撃を受け、社会的信頼を失墜させた欧米のグローバル企業は、社会的信頼を回復し、中長期的なサステナビリティに取り組む必要性からESGに本格的に向き合うようになった。
② ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、企業の長期的成長のためにCSV(Creating Shared Value、共有価値の創造)に取り組むべきとの論文を発表、ネスレは、CSR報告書の名称にCSVを使用し、この概念を取り入れていた。
③ 日本では、リーマンショックによるコスト削減の必要性からCSR予算をカットし、ESGへの取組みも立ち遅れてしまった。

Contact

お気軽にお問い合わせください

お問い合わせフォーム