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「答え」を求める前に、「問い」を研ぐ。――プロフェッショナルが守るべき、コミュニケーションの作法

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム 298

「問い」に対して、すぐ答えてあげるほうが親切か?

前回に引き続き、我が家の4歳の息子の話から始まる。彼は言葉が話せるようになる前から「鉄道」が大好きで、週末に新潟を車で移動していると、線路が見えるたびに「パパ、あの線路は何線?」という無邪気な問いかけが飛んでくる。親としては、即座に「あれは信越本線だよ」と正解を提示してあげるのは容易いことだ。しかし、私はあえてすぐには答えを教えない。代わりに、「何線だと思う?」と問い返すことから始めるのである。
最初は「わからない」と返ってくる。そこで私は、彼が既に持っている知識と関連付けられるようなヒントを出していく。「ここは新津駅の近くだけど、新津駅には何線が走っていたかな?」と。すると彼は「ええと……信越本線と、羽越本線と、磐越西線!」と記憶を辿り始める。「そうだね。じゃあ、今は新津駅から新潟駅に向かっているところだから、そう考えるとこれは何線だと思う?」ここまで来ると、彼の表情がパッと明るくなる。「わかった!信越本線だ!」この瞬間、彼は単に知識を得ただけでなく、「自らの頭で考え、正解を導き出す」というプロセスを経験したことになる。この小さな成功体験の積み重ねこそが、自ら考える力を養う土壌になると私は信じている。

「ただ聞く」は思考の放棄である

この家庭での一幕は、プロフェッショナルの現場における鉄則とも深く通じている。コンサルティングの業務において、私たちは日々、プロジェクトメンバーを始め、上司やクライアントと数多くの確認や相談を行う。その際、「ただ聞くだけ」という姿勢は歓迎されない。例えば、仮説の検証時や、資料のまとめ方等を質問するとき、 単に「これはXXですか?」 とだけ聞くのは「NG」である。これは、自らの思考を放棄し、相手に正解を出してもらうことを丸投げしている状態に他ならない。相手の時間を「自分の代わりに考えてもらう時間」として奪っているとも言えるだろう。一方で、推奨されるのは次のような「OK」の聞き方である。 「これについて、私はXXという理由から、結論はXXだと考えているのだが、認識に齟齬はないだろうか」。

仮説が「対話」を深化させる

このように、自分なりの「案(仮説)」を持って問うことは、単なる確認作業以上の価値を持つ。まず、自らの考えを先に述べることで、自分がどこまで理解しており、どこからが不明確なのかという「現在地」を相手に示すことができる。これにより、議論のスタートラインが明確になり、コミュニケーションの効率が飛躍的に高まるのだ。また、もし自らの仮説が間違っていたとしても、むしろ「自らの論理のどこに欠陥があったのか」という、具体的で有益なフィードバックを得る貴重な機会となる。これは、最初から答えを教えてもらうだけでは決して得られない、プロとしての成長の糧である。「問い」を投げかける前に、自らの頭で考え、自らの解を研ぎ澄ませる。この一見遠回りに見えるプロセスこそが、プロフェッショナルとしての誠実さであり、相手に対する敬意の表れでもある。

自律したプロフェッショナルであるために

息子が「信越本線だ!」と叫んだときの、あの嬉しそうな笑顔を思い返す。答えを与えられるのを待つ「受動的な存在」から、自ら答えを導き出す「能動的な存在」へと変わる喜びは、子どもも大人も、そしてプロのコンサルタントも同じであると思う。答えを与えられるのを待つだけでは、クライアントへの真の価値提供など望むべくもない。自らの仮説を携え、それをぶつけ、磨き上げるという地道な繰り返しこそが、自律したコンサルタントとして在るための絶対条件であると考えている。私もまた、息子に負けぬよう、常に自らの解を持ち、クライアントの課題解決に真摯に向き合い続けたい。

MAVIS PARTNERS アナリスト 大橋建太